
A.M.Co 9oz Blue Denim by O.A — 9オンスのひみつ
Share
今回の新作デニムに冠した生地名 “A.M.Co 9oz Blue Denim by O.A”。
この「9oz」という数字には、単なる厚みの目安以上の意味があります。
結論から言えば、この9オンスは決して薄くありません。
古いアメリカのリニアヤード基準による9オンスであり、
現代の基準に置き換えるとキバタ(未防縮)で約11.6オンス、サンフォライズ加工後なら約12.75オンスに相当します。
プロジェクトの背景と歴史
18世紀後半、イギリスで急成長を遂げた綿織物工業は、大西洋を渡り、マサチューセッツ州を中心にアメリカでも発展しました。
この波は隣接するニューハンプシャー州にも広がり、Amoskeag Manufacturing Company(A.M.Co)は1831年に法人化。
豊富な資本力を背景に買収を重ね、19世紀半ばには世界最大規模の織物都市に成長します。
顧客にはLevi Strauss & Co.など多くのワークウェアメーカーが名を連ね、アモスケイグのデニムは「最高品質」として名を馳せました。
しかし繁栄は長く続かず、20世紀に入ると衰退。
現在、その赤煉瓦の工場群は、歴史を伝える保存地区として静かに佇んでいます。
私たちの訪問と驚くべき発見
2022年秋、私たちはニューハンプシャー州マンチェスターを訪れました。
マリメック川沿いに広がるレンガ造りの建物群は、まるで19世紀から切り取った風景のよう。
資料館では、番号を記入すると、整然と並ぶ資料庫からスタッフが一冊ずつ大切に運び出してくれます。
その中に、まるでスーツケースのような大きく重厚な本がありました。
ページを慎重にめくると──そこには当時のデニムのレシピが記されていたのです。
リニアヤード基準とは?
当時と現代で「オンス」の意味が異なるのは、基準となる面積が違うためです。
時代 |
基準面積 |
計り方 |
備考 |
古いアメリカの織物業界 |
1リニアヤード(幅固定)あたりの重さ |
幅はその生地固有(例:28インチ幅なら28インチ×36インチ)を基準に重さを量る |
デニムやコットンダックで混在。狭幅ほど数字上は軽く見える |
現代(ジーンズ業界) |
1平方ヤード(36×36インチ)の重さ |
幅に関係なく、正方形の面積を基準に重さを量る |
世界的に標準化され、厚み・密度比較が容易 |
具体例:リニアヤード9オンスの換算(幅28インチの場合)
- リニアヤード → 平方ヤード(キバタ)
- 面積比:1296 ÷ 1008 ≈ 1.2857
- 9oz × 1.2857 ≈ 11.6oz(キバタ)
- 平方ヤード(サンフォライズ後、縮み率9%)
- 11.6 ÷ (1 − 0.09) ≈ 12.75oz
→ リニアヤード9oz(幅28インチ)= 現代換算でキバタ約11.6oz、サンフォライズ後約12.75oz
なぜリニアヤードは「幅固定」だったのか
19世紀〜20世紀前半、織物はすべてシャトル織機で織られ、織機の構造上、織れる生地幅はほぼ固定されていました。
デニムの場合は27〜30インチ幅が一般的で、工場ごとに所有する織機の幅は決まっており、その幅に合わせて製品規格も統一されていました。
このため、計量単位としても「その生地幅 × 36インチ(1ヤード)」をひとつの基準とし、その長さの重さを量る方法──リニアヤード基準──が自然に使われました。
生地幅が異なってもリニアヤード基準が問題にならなかった理由
当時はほとんどの工場が同じような幅の織機を使っており、
たとえ27インチ幅と29インチ幅などわずかに違いがあっても、重さの比較や取引には支障がありませんでした。
むしろ、特定メーカーや規格に合わせた取引慣行のほうが重視され、幅の差は商習慣の中で吸収されていたのです。
なぜ幅固定ではなくなったのか
20世紀半ば以降、シャトル織機からより生産効率の高い力織機やプロジェクタイル織機に置き換わると、幅広の生地を織ることが可能になりました。
大量生産・大量流通の時代になると、同じ生地でも用途や市場に応じて幅を変えて織ることが一般的になり、幅が固定される必然性は薄れました。
また、国際取引の拡大と軍需規格の導入により、異なる幅の生地でも公平に比較できる単位が求められ、
1平方ヤード(36×36インチ)あたりの重さで表す「平方ヤード基準」への移行が進みました。
1960年代初頭には、この平方ヤード基準が世界的な標準となり、オンス表記は現代の定義に統一されます。
数字のマジック — 9オンスは本当に薄いのか?
現在流通している多くのジーンズ用デニムはサンフォライズ加工済みです。
つまり、デニムを手に取る皆様が日常的に接する「13オンス前後のデニム」と、この A.M.Co 9oz Blue Denim は、
実質的に同等の厚みと重みを持っています。
数字だけ見て「薄い」と判断するのは早計です。
これは計測方法と加工の違いによる数字のマジックであり、同じ生地でも表記の仕方で印象が大きく変わります。
リニアヤード基準はいつからいつまで使われたのか
- 19世紀半ば頃~1940年代:狭幅生地が主流の時代に定着
- 1930年代後半~1950年代:平方ヤード基準が並記され始める(軍需規格や国際取引の影響)
- 1960年代初頭まで:平方ヤード基準に完全移行し、オンス表記は現代の定義に統一
復刻への挑戦
今回の特別プロジェクトでは、発見したレシピとスワッチを手がかりに、
糸の選定や打ち込みの加減、色合いまで検討を重ね、
当時の質感と構造を再現しつつ、現代の製作環境で製造し得るデニムが仕上がりました。
こうして完成したのが A.M.Co 9oz Blue Denim by O.A。
この「9oz」に込められた時代背景と数字の裏側も、ぜひ一緒に感じ取っていただければと思います。
まとめ
- A.M.Co 9oz の「9」は古いアメリカのリニアヤード基準
- 現代換算ではキバタで約11.6oz、サンフォライズ後で約12.75oz
- 数字の違いは計測方法と加工の違いによるもので、生地の実質的な厚みは同等