
City Lights Bookstore
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場所: カリフォルニア州サンフランシスコ(San Francisco, CA)
概要:City Lights Bookstore(シティ・ライツ書店)は、1953年に詩人ローレンス・ファーリンゲッティが創設した、サンフランシスコの象徴的な独立書店。文学・芸術・政治思想が交差するこの空間は、世界中のカルチャー好きや旅人を惹きつけ続けています。
この書店が文化史において特別な存在となったのは、アレン・ギンズバーグの詩『Howl(吠える)』を発表したことに始まります。1956年、ギンズバーグの過激で美しい詩は、アメリカ社会の偽善や抑圧に対する告発として多くの若者を揺さぶりました。その結果、『Howl』は猥褻と見なされ裁判にかけられるものの、書店側の勝訴により「表現の自由」を守る重要な判例となりました。
その衝撃的な言葉の奔流は、文学界を超えて音楽シーンにも波及。ボブ・ディランはギンズバーグと親交を持ち、詩の影響を受けて歌詞に詩的要素と社会批評性を取り入れたことはよく知られています。加えて、ヒッピーカルチャー、60年代のカウンターカルチャー運動、サンフランシスコを中心としたサイケデリックロックやフォーク・ミュージックの精神的背景にも、ギンズバーグの詩やその思想は深く根を下ろしました。
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“I saw the best minds of my generation destroyed by madness, starving hysterical naked,”
(私は見た、我々の世代の最良の精神たちが狂気によって破壊されるのを 飢え,苛ら立ち,裸で)
HOWL by Allen Ginsberg
「日本から来ました。ケルアックの大ファンです。」そう伝えると、ボブは嬉しそうに笑った。
外壁に大きく描かれたジャック・ケルアックとニール・キャサディのイラストが目印のここ、The Beat Museumは、City Lights Bookstoreのすぐ近くにあるにもかかわらず、いつも人で賑わうCity Lightsとは対照的に、ひっそりと静かだ。この日も、私たち以外に誰の姿もなかった。
だからこそ、ボブはとても熱心に、たくさんの話をしてくれた。詩を朗読し、人物について語り、ビート文学に情熱を注ぐ東京の書店の話もしてくれた。最後には、自作の春の俳句を披露してくれた。彼は俳句も読むのだという。
ビート文学を愛する人は、誰もがかっこいい。アメリカンカルチャーを好きな理由、そのすべての源流がここにあることを知ってからというもの、夢中で本を集め、その足跡を辿り、ついにここまで来た。幸運なことに、このベイエリアは、私たちにとってのアメリカのホームタウンでもある。
ボブとの時間のあと、3分ほど歩いてCity Lightsに向かった。鋭角な三角形の建物は、何度訪れてもその存在感に圧倒される。
入り口をくぐり、広くはない店内を右に進むと、伝説のPoetry Room(ポエトリー・ルーム)へと続く階段が現れる。その壁には、ジャック・ケルアックやニール・キャサディらの写真や資料がびっしりと貼られており、一段一段、階段を上るごとに胸が高鳴る。音楽やアート、ファッション界の多くの偉人たちも、かつて同じような気持ちでこの階段を昇り降りしたのだろうか。
階段を登り切ると、窓から柔らかな陽が差し込む、静かでこぢんまりとしたアジトのような空間が広がっていた。かつては、抑えきれない衝動と激しいエネルギーに満ちていた場所だが、今は穏やかな時間が流れている。
そして、Ryoが本棚から、時代の枠を打ち破った伝説の一冊『HOWL』を手に取った。
部屋の隅、陽だまりに置かれた椅子に腰掛け、
彼は『HOWL』の、あまりにも有名なあの一行を読み始めた。