
Moe’s Books
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場所: カリフォルニア州バークリー( Berkeley, CA)
概要:Moe's Books(モーズ・ブックス)は、1959年にモー・モスコウィッツとその妻バーバラによって創業された、アメリカでも屈指の歴史を誇る独立系書店です。大学の街・バークリーの中心地、テレグラフ・アベニュー沿いに構えるこの書店は、4階建ての店舗に約20万冊の蔵書を誇り、新刊から古書、希少本まで、文学、芸術、建築、哲学など幅広いジャンルをカバーしています。
創業者モー・モスコウィッツは、自由な思想と反体制的な精神の持ち主であり、Moe’s Booksは単なる本屋ではなく、知と対話の拠点として地域文化の中核を担ってきました。現在は娘のドリス・モスコウィッツが経営を引き継ぎ、創業の精神を守りながら現代的な書店としての魅力を保ち続けています。
また、この書店はその独特の雰囲気と文化的背景から、映画のロケ地としても知られており、映画『The Graduate(卒業)』をはじめとする作品に登場したことで、その名をさらに広く知られるようになりました。Moe’s Booksは、知的好奇心を刺激する空間として、本を愛する人々やバークリーを訪れる旅行者にとって、決して見逃せない存在となっています。
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エレベーターで最上階の4階に上がり、左手へ進むと、そこにRare Book Roomがある。部屋に一歩足を踏み入れた瞬間、空気がどこか違って感じられた。白髪で優しい目をした男性が、静かに声をかけてくれる。その風貌と醸し出す雰囲気から、一目で彼がレアブック・スペシャリストであることがわかる。
アメリカの古い建物によくあることだが、床が少し傾いていて、歩いていると平衡感覚を失いそうになる。ふと、このまま床が抜けてしまうのではないかという不安がよぎったが、気がつけば私は、書棚に並ぶ本の世界にすっかり引き込まれていた。
ジャック・ロンドンやスタインベック、そしてジャック・ケルアックの原書が、所狭しと並んでいる。ガラスケースに陳列された本の数々は、さすがに高額だったが、見ることができただけでも、まさに「レア」な体験だった。日本の古地図や、見たことも聞いたこともない日本人著者の本も、丁寧に分類され、整然と並べられている。
素晴らしい本を見せてもらったことにお礼を伝えて、部屋を出る。その後もRyoとふたり、それぞれ思い思いに書棚を漁る。一冊一冊、背表紙のタイトルを追い続けているうちに、かなりの時間が経っていた。やがてRyoがやって来て、「あそこはもう見た?」と声をかけてくる。私は「まだ」と答え、ふたりで階下へ降りた。
そのとき、私は悟った。この書店のすべてを見切ることはできないし、これからRyoが気に入った一角を丁寧に見て回るには、すでにかなり体力を消耗している。それで私は言った。「そろそろ行こうか」と。そして最後に、ギフトショップに立ち寄ることにした。
アメリカの書店やカフェ、美術館のあちこちにあるギフトショップが私は大好きだ。そこを訪れた確かな記念を持ち帰ることができるし、なにより、やはりデザインがどれも秀逸なのだ。
――後日談。帰国後、映画『卒業』を見た。
スクリーンに映し出された風景を見て、思わずにんまり笑ってしまった。
私たちは、あのストリートに行ったのだ。