The Metropolitan Museum

The Metropolitan Museum

場所: ニューヨーク州ニューヨーク(New York, NY)
概要:
メトロポリタン美術館(The Metropolitan Museum of Art、通称MET〈メット〉)は、アメリカ・ニューヨーク市にある世界最大級の総合美術館です。1870年に設立され、現在はセントラルパークの東側、通称「ミュージアム・マイル」に壮麗な本館を構えています。コレクションは、5000年以上にわたる人類の芸術と文化を網羅しており、古代エジプトの遺物、ギリシャ・ローマ時代の彫刻、ヨーロッパの名画、日本や中国を含むアジアの工芸、イスラム美術、ファッション、現代アートまで多岐にわたります。美術だけでなく、武具や楽器、家具なども含め、文化的資料としての価値も極めて高いのが特徴です。館内は、まるで世界を旅するように各文明の時代や地域をめぐることができる構成になっており、訪れるたびに新たな発見があります。また、現代ファッションとアートを融合させた展覧会や、屋上でのインスタレーションなど、革新性にも富んでいます。単なる美術館という枠を超え、芸術と文化、歴史が生きている空間――それがメトロポリタン美術館です。

「あなたはNYに住んでいますか?」と聞かれ、「いいえ」と答えた。
「それでは彼は?」チケットカウンターの彼女は、ニールを指差しながら会話を続ける。
「彼はNYに住んでいます」と私は答えた。
「それなら彼と一緒にチケットを買って。その方が安いわよ」
彼女はそう言うと、会話はそこで終わった。

隣の窓口でチケット代を払おうとしていたニールに合流し、事情を伝えて一緒にチケットを取ってもらうことにした。一般客の入場料は30ドルだが、ニューヨーカーは割引があるらしい。いや、正確には任意の金額での入場が可能とのことだった。というわけで、ずいぶんお得にMETのチケットを手に入れることができた。

「中学のとき、英語の教科書『ニューホライズン』に出てきただろ? “メトロポリタンミュージアムへはどうやって行きますか?”って例文。ついに来たな」そう言ってRyoは、METの高い天井を見上げて感嘆の声を漏らしていた。

アートという名の巨大迷路に足を踏み入れた私たち三人は、何度もマップを確認しては方向感覚を失い、自分たちが今どこにいるのかを把握するのに必死だった。ここは、まさに文字通りの巨大迷路なのだ。

いくつかの展示室を3人で回ったあと、「この後どうする?」とニールに尋ねられ、私たちは「一日中ここにいるつもり」と答えた。ニールは笑って、「それなら、僕はここで失礼して仕事に戻るよ。あとはゆっくり楽しんで」と言い、美術館を後にした。

彼と共にニューヨーカーらしいおしゃれで洗練された朝食をとり、セントラルパークを自転車で走り抜け、美術館を巡った目まぐるしい午前は、こうして幕を閉じた。

その後は、やはりというべきか、私たち二人は再び迷子になりながら、大理石の階段を上ったり下りたり。地図を手にしているのに、気づけば予定していた展示室とは違う場所に吸い込まれている。けれど、その偶然すら心地よかった。静かな館内に漂う空気。重厚な額縁の中から語りかけてくる名画たち。筆致の温度、光と影の躍動、画家たちの執念――じっと立ち尽くして見入るうちに、時間の感覚はいつの間にか消えていた。

「こんなに贅沢な時間、きっとそう何度もあるものじゃないね」と誰かが言った。あるいは、それは心の中の声だったかもしれない。幾世紀も前の空気が封じ込められたような空間で、ただ絵を見て、何かを感じる。それだけなのに、なぜか満ち足りていた。まるで神聖な儀式に立ち会ったような、そんな午後だった。

――だが、私たちは圧倒的なミスを犯していた。
気がつけば、予約していたレストランの時間が目前に迫っていたのだ。しかも、あの巨大なエジプトゾーンをまだ見ていない。

Ryoは「どうしても“青いカバ”だけは見ておきたい」と言い、私たちは汗ばみながら小走りで巨大な迷路をすり抜け、“青いカバ”を探し回った。けれど、もはや時間の余裕はなかった。

学芸員の方に尋ねると、彼はにこやかに「現在、“青いカバ”は展示を休止中です」と言った。”いつまでも、そこにあると思うな” 心の声が聞こえた。

流れ落ちる汗をぬぐいながら、私たちはミイラの展示室を息を切らせて通り過ぎ、ギフトショップへと急いだ。ギフトショップだけは、どうしても行かねばならぬ。

そうして、いくつかのMETグッズを手にして、美術館をあとにした。

ブログに戻る